250618suenaga.jpg 令和7年1月17日にエチルベンゼンの室内濃度指針値が改定されました。
 これまでは3,800μg/㎥(0.88ppm)でしたが、今回の改定により約1/10の370μg/㎥(0.085ppm)へと引き下げられました。

 また、指針値の改定と同時に、これまで複数の通知で示されていた標準的測定方法が一つに統合され、試料採取条件の定義の記載が整備されました。これにより、これまで標準的測定方法に記載されていた「容器採取法-ガスクロマトグラフ/質量分析法」については、適用外となりました。但し、令和8年3月31日までは猶予期間となっていますので、「従前の例によることができる。」とされています。

エチルベンゼンの発生源

 エチルベンゼンは、化学式C8H10で表される炭化水素で、分子量106.17の無色の液体です。
 塗料、接着剤やシンナーなどに含まれていることがありますので、室内での塗装、接着、クリーニングでの汚れ落とし等の作業により、発生する可能性があります。

 また、部屋を溶剤系の資材の置き場にした場合、揮発した成分が壁や床などに吸着してしまい、資材を移動した後も、濃度が高い状態がしばらく続く可能性があります。

指針値改定の経緯

 室内濃度指針値は、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会〔厚生労働省〕」において、有害性や健康影響などの科学的知見に基づいて、検討されています。

 エチルベンゼンの室内濃度指針値は、当初は、肝臓及び腎臓への影響を考慮して設定されましたが、今回の改定では聴覚への影響が考慮され、指針値が引き下げられました。

指針値改定による影響

 今回のエチルベンゼンの室内濃度指針値の改定で、指針値が約1/10と大幅に引き下げられたことによる測定への影響がどうなるか考えてみました。

 オオスミで令和4年4月~令和7年3月の3年間に室内空気環境測定を実施した約6,600地点のうち、新しい指針値(370㎍/㎥)を超過したのは約1.1%にあたる71地点でした。残り約99%は指針値以下であり、今回の改定による影響はあまり大きくないと考えています。

指針値を超過しないために

 上記と同じ3年間にオオスミで測定した地点のうち、室内濃度指針値を超過した地点は約500地点あり、約7.6%に当たります。これは、エチルベンゼンに限らず、測定の対象とした他の項目も含みます。

 室内空気環境測定を行う場合、測定方法や測定時間によって異なりますが、1~2日程度掛かりますので、その間は立入禁止や作業の制限が必要になる場合があります。1回目の測定で室内濃度指針値を超過すると指針値をクリアするまで再測定が必要となってしまいます。

 再測定の間は、再び立入禁止や作業の制限などが必要となり、その分作業工程に影響を及ぼす可能性があります。そのため、1回目の測定で指針値をクリアできるようしっかりとした事前準備をすることが重要となります。

事前準備の例をいくつか紹介します。

  • 測定前の早い段階で溶剤作業を終了する
  • 溶剤系の資材は事前に影響のないところへ移動しておく
  • 事前に窓開け換気や機械換気等で十分な換気を行う
  • 測定の実施について作業員の方へ事前に朝礼や張り紙などにより十分に周知しておく
  • 測定直前、当日は溶剤作業を行わない
  • など

    指針値を超過してしまったら

    250618suenaga1.jpg もし、指針値を超過してしまったら、再測定を行うまでの間に化学物質の濃度を下げなければなりません。

     一番簡単な方法は換気の実施です。窓や扉を開けて風を通したり、機械換気を使って換気したり、送風機を使って強制的に換気をしたりすることで濃度を下げていきます。その他にも部屋の内部の温度を上げて化学物質を揮発させる方法、ケミカルフィルターを使う方法、化学物質を吸着材料に吸着させる方法などもありますが、コストがかかるものが多いです。

     また、色々対策をしてみたけれど、なかなか濃度が下がらないといった場合は、原因を根本から特定し、それに対処する必要があります。

     オオスミでは、このような場合も、原因の調査や対策についてアドバイスをしておりますので、ぜひご相談ください。


     調査第二グループ 末永