環境基準の設定根拠は?~規制基準との違い~
皆さんは普段生活の中で、無意識のうちに何かを「基準」と比較して判断している場面が、意外と多いかもしれません。例えば、試験の合格ラインや健康診断の血液検査の数値など、さまざまな場面で出てくる「基準」は、どのような考え方や根拠をもとに設定されているのか、考えたことはありますでしょうか?
今回はオオスミの業務にも深く関わる「環境基準」の設定根拠と、規制基準との違いについてわかりやすくご紹介します。
環境基準設定の根拠:科学的知見の活用
環境基準の設定根拠は、主に疫学調査、動物実験による毒性学的知見、および汚染物質に関する労働者の疫学知見など、入手可能な科学的データに基づいています。また環境基準設定のアプローチは、物質の有害性の性質によって大きく下記の2つに分けられます。
- 閾値がある物質
曝露量以下では影響が起こらないとされる閾値がある物質については、人に対して影響を起こさない最大の量(最大無毒性量/NOAEL)を求め、これに不確実係数を適用するなどして、安全性を考慮した環境目標値が定められます。 - 閾値がない物質(発がん性など)
曝露量から予測される健康リスクが十分に低い場合に「実質的に安全」と見なす考え方に基づき、環境目標値が設定されます。特に有害大気汚染物質対策では、現段階で生涯リスクレベル 10-5(10万分の1)を当面の目標としています。
また、水質汚濁に係る基準では、飲料水を経由した影響(長期飲用を想定)を考慮するほか、魚介類への生物濃縮性が高い物質については、食品を経由した影響も考慮されます。
環境基準と規制基準の決定的な違い
環境基準の最も重要な性格は「維持されることが望ましい」目標値である点です。
これは、法律などで定められた「排出抑制基準値」や「排水基準」といった規制基準とは異なります。
- 環境基準
政策目標の基礎であり、個々の物質の健康リスクを公平に評価するための共通の物差しです。排出抑制のための技術的可能性等を勘案する必要はなく、一律に定めてよいとの考えに基づいて設定されています。 - 規制基準
排出抑制の技術的可能性を勘案して、個別物質・項目ごとに決定される事業者が遵守すべき数値です。
例えば、有害大気汚染物質対策において、目標とすべきリスクレベルは、そのレベルまでの汚染を容認するものではなく、環境基本法の理念に基づき、環境への負荷をできる限り低減することを旨として対策を講じるべきであると強調されています。つまり、環境基準は、『国民の健康保護と生活環境保全という観点から、目指すべき理想的な水準を示す羅針盤』、規制基準は『環境基準を達成・維持するために事業者が個別の項目ごとに遵守すべきルール』としての役割を担っています。
環境基準や規制基準は、日常生活ではあまり意識されないかもしれません。しかし、これらは私たちの安全で快適な暮らしを支える重要な仕組みです。
出典:環境基準等の設定に関する資料集(国立研究開発法人 国立環境研究所)
環境の基準-その科学的根拠-(丸善株式会社 昭和54年7月)
調査第二グループ 山崎